Anti Szabo’s Law 新たなブロックチェーンガバナンスの形を作るために。

Anti Szabo’s Law 新たなブロックチェーンガバナンスの形を作るために。

Tsuyoshi Kaji / 編集長
Tsuyoshi Kaji / 編集長
2019/03/11

はじめに

イーサリアムのコア開発者であり、今後イーサリアムに導入される可能性のあるPoSベースのコンセンサスアルゴリズムCasper CBCの設計者でもあるVlad Zamfir氏が今年2019年の1月に「Against Szabo’s Law, For A New Crypto Legal System」と題し、ブロックチェーンガバナンスとCrypto Law*に関する議論を投げかけました。

ブロックチェーンの本質とも言えるガバナンスについて日本で活発な議論が行われていないこと、Crypto Law*に関する議論が英語圏のみで行われていることに危機感を感じ、本記事でVlad Zamfir氏による問題提起を取り上げます。

*Crypto Lawはブロックチェーンにおける新しい概念で、明確に定義はされていませんが、本メディアでは「ブロックチェーンガバナンスにおいて発生する紛争の解決のための規範や信条の体系」と少し広く定義して議論を進めます。

Anti Szabo’s law

ここでは「Against Szabo’s Law, For A New Crypto Legal System」と題して発表されたVlad Zamfir氏の言説を「Anti Szabo’s Law」と呼ぶことにします。(この名前を使い始めたのはおそらくCryptoeconomics LabのSg氏であり、そこからの引用です。参照)

Anti Szabo’s Lawは端的に言うと

ブロックチェーンが社会・経済・政治などの基盤になるためにはImmutability (対改ざん性) への固執を緩和し、チェーンの巻き戻しやコントラクトの更新を可能にすべきである

という言説です。

以下、順を追って説明します。

現行のCrypto Law

Vladは現在以下の3つのCrypto Lawが存在していると主張しています。

  • Crypto Law #1: Don’t Break the Protocol.

ブロックチェーンプロトコルにバグが発生し破壊に繋がる可能性のあるプロトコルの変更が必要なのであればブロックチェーン上の紛争はもはや解決されなくてよい。

  • Crypto Law #2: Keep Crypto Law Legal.

既存の法制度下での紛争を避けるために既存の法制度に基づいてブロックチェーンは運用されるべきであり、Crypto Lawは既存の法制度に内包される。

  • Crypto Law #3: Szabo’s Law.

ガバナンス・Crypto Lawを最小化し、技術的メンテナンス以外の理由でブロックチェーンプロトコルを変更するべきではなく、ブロックチェーン上で発生する紛争には対応しない。Szabo’s Lawという名前はビットコイン誕生の遥か前からスマートコントラクトや自律的ソフトウェアを提唱し、普及に貢献したNick Szaboの名前からVladが名付けています。

 

Vladはブロックチェーンコミュニティに神格化されて流布しているSzabo’s Lawが危険であると主張しています。そして、コミュニティ全体でCrypto Lawについて議論し新しいCrypto Lawを作るべきだと主張しており、その一つの案としてVladが提示しているのが上記のAnti Szabo’s Lawです。

Szabo’s Lawの危険性

現状最もブロックチェーンコミュニティで流布しているSzabo’s Lawの問題は、突き詰めると「Szabo’s Lawに基づいたブロックチェーンはグローバルな社会の基盤になることができず、サイファーパンク達の玩具に終わってしまう」という点にあると言えます。

なぜ社会の基盤になることができないか、Szabo’s Lawの危険性を説明していきます。

 

– 不完備契約

そもそもイーサリアムスマートコントラクトは不完備契約です。

不完備契約とは取引で発生し得る全ての状況とその対応を事前に全て記載することのできない契約” (出典) のことです。

ブロックチェーン上でどんな紛争が発生するか予想できないにも関わらず、発生した紛争の解決に対しては何もできないという状況では、ブロックチェーンがグローバルな社会・経済・政治の基盤としてより多くの人に価値を享受させること*は難しいでしょう。

*グローバルな社会・経済・政治の基盤としてより多くの人に価値を享受させていく可能性のことを「Social Scalability」と言います。

 

– Crypto Law #2に反する

Nick SzaboはブロックチェーンのガバナンスとCrypto Lawの最小化によって既存の法制度下でのリーガルリスクも最小化されると主張していますが、Vladはむしろ逆だと考えています。

ブロックチェーン上で何か紛争が発生した際に、プロトコルの変更ができないためになんの対応もすることができなかった場合、ブロックチェーンプロトコルの開発と使用自体がそもそも違法になる危険性があるからです。

これは、Crypto Lawで裁くことができない問題は既存の法制度で裁かれることになりますが、既存の法制度で裁かれたとしてもプロトコルを変更することはできないので、根本的な解決にはならず、違法化されてしまうということです。

 

– ガバナンスの議論が閉じられている

Szabo’s Lawに基づいたブロックチェーンでは、ガバナンスの結論が決められているため、政治的・法的な議論の場が最小化されています。

例え問題が発生したとしても技術メンテナンス以外のプロトコルの変更という選択肢がなく、為すがままにしかできないという思想はあまりにアナーキズム的であり、議論のできない反社会的な仕組みではサイファーパンク的な思想を持った一部の人達にしか使われないでしょう。

Vitalik Buterinの反応

Vladのこの言説に対し、イーサリアムのファウンダーであるVitalik Buterinは以下のように反応しています。

  • 変更を加えることは良い結果をもたらすことも悪い結果をもたらすこともある。
  • 適当で、大して計算されていないメカニズムに基づいた変更は往往にして悪い結果をもたらす。
  • 何もせず放置することが最も安全でないということは同意する。
  • 具体的にどんなことがSzabo’s Lawの違反に当てはまるのか、次のアクションが何かピンとこない。

Vitalikの反応のように、他のコミュニティメンバーもあまり肯定的ではなく、重要な事柄であるにも関わらず、議論自体も活発化と言われればそうではありません。

まとめと考察

Vladの「Szabo’s Lawに基づいたブロックチェーンはグローバルな社会の基盤になることができず、サイファーパンク達の玩具に終わってしまう」という主張は非常にその通りだと思います。

しかし一方、ブロックチェーンビットコインなどの暗号通貨はサイファーパンク的な思想によって作られ、成長してきたのも事実です。そしてNick Szaboを始めとするパイオニア達はおそらくブロックチェーンを社会基盤にしていく意思もないように感じられます。

ブロックチェーンがサイファーパンクの玩具という次元を超えてSocial Scalabilityを獲得し、グローバルな社会の基盤になるためにはVladのいう通り、ブロックチェーンガバナンスの紛争解決手段であるCrypto Lawを真剣に考える必要があります。

とはいえ、Vladの「対改ざん性への固執を緩和し、チェーンの巻き戻しやコントラクトの更新を可能にする」という提案は非常に難しいことで、適切なガバナンスの機構が必要です。現状、その適切なガバナンスの機構はVladによっては提案されていません。そのためVladの提案はあまりコミュニティから支持を得ていません。そもそも完全な対改ざん性を失ったブロックチェーンは価値を維持できるのかも不明です。

こういった問題について考え、議論することが新しい適切なCrypto Law、ガバナンスの形を作ることに他なりません。そしてそれを作るのは一部のコア開発者のみであってはなりません。

私たちが社会基盤としてのブロックチェーンの発展を信じるならば、日本でも活発な議論を進めブロックチェーンコミュニティの一員としてCrypto Lawを形作っていきましょう。


参考

 

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