ブロックチェーンによるイノベーションと規制のバランス

ブロックチェーンによるイノベーションと規制のバランス

Tsuyoshi Kaji / 編集長
Tsuyoshi Kaji / 編集長
2018/10/30

今年2018年4月にボストンで開催されたカンファレンス「Business of Blockchain」はMITテクノロジーレビューとMITメディアラボDigital Currency Initiativeによって主催され、ブロックチェーンの技術、思想、社会への影響などのテーマでディスカッションが行われました。Economies2.0編集部ではこのイベントがとても有益なものだと考え、このイベントで扱われているトピックを取り上げることにしました。本記事では米商品先物取引委員会の委員長などを務めたGary Gensler氏が、当局の視点から見たブロックチェーンと規制のバランスの取り方について解説します。

Gary Genslerプロフィール

MITビジネススクールの准教授。また、MITメディアラボでは、Digital Currency InitiativeやEthics and Governance of AI projectのアドバイザーも務めている。2009年から2014年までは米商品先物取引委員会の委員長を務め、オバマ政権の金融危機後のOTCマーケットのデリバティブやスワップへの改革をリードした。業績としては2014年にTamar Frankel Fiduciary Prizeを受賞した。現在はメリーランド州の消費者金融保護委員会の委員長も務めている。Wharton School経営学修士。

ブロックチェーンの可能性

ブロックチェーンの可能性についてはEconomies2.0でもすでに何度も触れてきたように、ブロックチェーンが既存のシステムをディスラプトし得る技術であるということはいうまでもありません。中でも、ブロックチェーンは金融の本質である「価値やリスクの移動」と強く結びついているため、金融において最も革新を引き起こすとGary氏は主張しています。しかし、この革新的な技術が一般大衆に受け入れられ、真価を発揮するためには法律に遵守する必要があります。法律が既存のままである必要はありません。法律とテクノロジーが互いにうまく擦り合わせていけば、規制とイノベーションのバランスを取ることができます。

現在のICOの問題点

2018年の1月から5月におけるICOの調達額は137億ドル以上、平均調達額は2550万ドルと、ICOはすでにベンチャーキャピタルなどを超えた資金調達手段となっています。しかし、バブル期から急増したICO詐欺は今だに増え続けています。こういった現状を踏まえ、ICO仮想通貨の取り扱いに関する消費者保護や、マネーロンダリング対策などが必要となっているのです。

ここで問題になるのが仮想通貨ICOによって発行されるトークンがセキュリティ (証券) なのかユーティリティ (実用品) なのかということです。

セキュリティトークンとユーティリティトークンの違い

仮想通貨トークンは大きくユーティリティトークンまたはセキュリティトークンに分類することができます。

ユーティリティトークンとはあるサービスの対価として消費されるトークンです。Usageトークン、Workトークンなどがありますが、基本的には使い道があるトークンのことを指します。例えばEthereum (ETH) の場合、Ethereum Virtual Machine (EVM) という24時間停止しない分散型グローバルコンピューターの使用料としてETHが消費されるため、ユーティリティトークンだと言えます。

セキュリティトークンとは有価証券として機能し、現実世界の価値を裏付けとしたもので、配当を受け取る権利などの証明書のようなものです。ユーティリティトークンとは違い、サービスの対価として消費することはありません。

トークンのセキュリティ (有価証券) 性を判断するHowey (ハウェイ) テスト

アメリカのセキュリティローではHoweyテストに基づきセキュリティが定義されます。これはアメリカの国会でセキュリティを定義した際に株や債権だけでなく、投資契約も含めて作られたものです。現在、仮想通貨トークンもHoweyテストに則ってセキュリティ性を判断するのが一般的とされています。

Howeyテストは以下のような条件で成り立っています。

  • 金銭または資産の投資

投資の対価として金銭または資産が用いられているかどうかの基準です。トークンセールなどでビットコインやEthereumを対価に資金を調達する場合は当てはまる確率が高くなります。一方エアドロップなど、無償で配布している場合は当てはまる確率は低くなります。

  • 共同事業への投資

ここで共同事業という言葉は厳密に定義付けされていませんが、一般的にはプールされた出資金が事業全体の成功度または事業の発起人によって確定するものと捉えられています。

  • 利益を生む見込み

収益性についての基準で、保有していることにより配当がある場合などはこれに当てはまります。ここで利益とは配当だけでなく価値の上昇も含むとされています。

  • 他者の努力に依存

投資先の事業に対して運営などの決定権があるかどうかの基準です。トークン保有者に決定権がない場合は当てはまる確率が高くなります。

このようなテストに基づき、トークンのセキュリティ性が判断されますが、Gary氏によると「交換可能 (fungible)」かつ「利益を生み出す」という特性がゆえ、多くのトークンは普通のセキュリティやユーティリティとは異なり、セキュリティとユーティリティの両方であるとしか言えないと主張しています。

今後求められる規制

多くのトークンがセキュリティとユーティリティの両方の側面を持ち、現在の法律では対応できない状況を踏まえると、今後投資家保護や消費者保護とイノベーションのバランスを取りながら新たな規制を作り上げていく必要があります。

新たな規制を作る上で考慮しなければならない項目は以下の通りです。

  • 補償
    • 契約の取り消しをどう取り扱うのか
    • 出資者をどう管理するのか
    • マネーロンダリングにどう対処するのか
  • 損失の回復
    • どのように損失を回収するのか
    • 規制当局や裁判所が介入するのか
  • 既存の規制
    • どのように既存の規制を調整するのか
  • 違反への対処
    • 違反に対してどのように対処するのか
    • 業務改善命令が出るのか、営業停止になるのか

Gary氏はトークンという特定の物を対象とした規制を考える上で当局がしなければならないこととして以下の項目をあげています。

結論

Gary氏は以下のように結論づけています。

  • ブロックチェーンが金融を変革することは間違いない
  • 法律に則ったイノベーションでなければならない
  • 消費者保護と投資家保護は必要不可欠

トークンの特徴がそれぞれ異なり、一元的な規制で管理するのが難しい中、現在の規制とイノベーションのバランスを取りながら新たな規制を作ることは簡単なことではなく、時間のかかる問題です。ですが、日本でも2018年10月24日に仮想通貨交換業協会が金融庁から自主規制団体としての認可を受けたように、これから少しずつ規制に関してのフレームワークができて行くことになるでしょう。


参考

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