エストニアの電子政府

エストニアの電子政府

Kouta Takeuchi
Kouta Takeuchi
2018/10/10

近頃話題のIT先進国エストニア。Skypeがエストニア人によって生み出されたことはご存知の方も多いでしょう。それだけでなく、実は国家自体の電子化が進んでおり、国民が持ち歩く身分証明書は電子IDカード一枚に集約され、99%の公共サービスがオンライン化されているのです。今回は、そんなエストニアが電子国家化へと至った背景とその仕組み、現状についてお話しします。

エストニアが電子化に踏み切った理由

なぜ、人口が150万人にも満たない小さな国であるエストニアがこのような先進的な電子国家となったのでしょうか?実は、これはむしろ人口が少ないからこそなのです。

エストニアは国土面積が約45,000k㎡と、人口に対して国土が広く、住民の住んでいるところがバラバラで、統一的なガバナンスが非常に難しいという課題がありました。そこで、行政をデジタル化することで、バラバラな国民を効率的にまとめようとして、現在の形となる源流ができました。

また、エストニアが電子化に踏み切った理由はもう一つあります。

皆さんエストニアがいつできた国なのかご存知でしょうか?実は、エストニアが完全に国家として初めて独立を果たしたのが1917年、その後もソ連による支配が続いたので、実質的には1991年なのです。いつから他国による支配が続いたのかというと、なんと13世紀。神聖ローマ帝国の派遣する十字軍により支配されて以来、デンマーク、ドイツ、スウェーデン、ロシアと、長い異民族支配の暗い歴史を辿ってきました。このような経緯から、たとえ国家が物理的になくなってしまっても、デジタル上で存続できるような、バーチャルな国家を作る構想ができあがりました。

エストニアの電子政府を支える基幹システム、X-Roadとは?

2002年にエストニアがIDカードプログラムを発表した頃、先述の通りエストニアはバラバラな社会でした。そこで、この物理的な障壁を克服するために、まず、国のいたるところにインターネットのアクセスポイントを設置しました。

しかし、それだけでは不十分でした。エストニア政府は、強力な情報インフラが必要でした。そこで、市民と公共機関、企業みんなが利用可能な、安全なデータ取引所を構築することにしました。それがX-Roadです。X-Roadは、市民がIDカードを利用してアクセスできるようなサービスを作るための情報を企業や公共機関に提供します。IDカードを持った市民は、税金の処理から医療記録、車の売買まで、多岐にわたるサービスを利用することが可能です。

確かにこのシステムは便利ですが、待てよ、と。このようなデータ取引所に個人情報を預けてしまっては、プライバシーがなくなってしまうのではないか、と慮る人も多いでしょう。

しかし、エストニア政府は個人情報のコントロール権が個人にあるような仕組みを整えています。

電車IDを持つ市民は、エストニア政府の提供するStatePortalにアクセスすれば、どのX-Road参加者が自分の情報へのアクセス権を持つか、誰がどの情報にアクセスしたかを確認でき、加えて企業側にはアクセス理由を明示する義務があり、不正がある場合は報告することができます。このように、情報利用の透明性を極限まで高めることで、信頼性を担保しているのです。

しかし、このシステムは2007年にサイバー攻撃の標的になってしまいます。幸い大きな被害はなかったのですが、これ以降エストニアはセキュリティの強化に更に注力します。それが、Guardtime社と共同開発したオリジナルチェーンである、KSIブロックチェーンです。

KSIのブロックチェーンのざっくりとした仕組みは以下です。

 

このように、X-Roadのデータベースをブロックチェーンとすることで、単一障害点をなくし、改ざん不可能とすることで、更に安全性と信頼性を高めることに成功しました。

具体的にどう機能しているのか

エストニアの電子IDは利用の際に二つのPINコードを必要とします。一つ目が本人確認用、二つ目が電子署名用です。

では、オンライン投票を例に挙げましょう。

投票の際、まずはオンラインページにアクセスし、一つ目のPINを入力して本人確認をします。そして、X-Roadを通じて選挙委員会がユーザーの年齢の情報にアクセスし、エストニア市民であることと選挙権を持つ年齢であることを確認します。この際に、選挙委員会はそれ以外の情報へアクセスすることは許されません。そして、ユーザーに選挙権があると確認がとれれば、候補者の情報が開示されます。

そして、候補者を選び、二つ目のPINで署名をすれば、投票というトランザクションの成立です。

また、投票者のID情報は選挙委員会に届く前に削除されるため、匿名性も担保されています。そして、期間中であれば何度でも投票する候補者を変更することができます。

このシステムの利点は何と言っても利便性でしょう。

市民は本人確認等に煩わされることなくサービスを利用でき、時間もお金も節約できます。企業などのサービスを提供する側もいちいち必要な情報を集める手間が省け、管理コストも節約できます。

エストニアでは、会社の登記にかかる時間は最短18分です。税金の確定申告は約5分、還付は数週間で完了します。公共交通機関を使う時はパスポートの代わりに電子ID、ドライバーも運転免許証の代わりに電子IDです。

The World Bankの調査によると、X-Roadによって、本来市民と政府が直接やりとりしなければならない雑務の三分の一がセーブされたそうです。

こちらがX-Roadにより節約されたトランザクションの時間です。ちりも積もれば山となる、合計すると約6000年になるそうです。細々とした情報提示が節約され、時間的制約から解放され、市民に自由がもたらされます。

これが、現在エストニアでスタートアップがアツい一因でもあるでしょう。

”単なる利便性”を超えて

エストニアはこの電子政府のシステムを単に市民やサービス提供者の利便性向上のツールとすることを最終目的とはしていません。イノベーションの起きる跳躍版としての機能を期待しているのです。

エストニアの首相Taavi Roivos氏はこう語っています。

“我々は、意図的に共有プラットフォームを構築しました。ばらばらな開発ではなく、合同デジタルIDと政府全体を巻き込んだデータ取引所として。これは、あらゆる公共セクターや社会でデジタルイノベーションが起こりやすくなるためのコンディションを整えるためのアイデアとも言えます。”

この目論見は成功していると言えるでしょう。エストニアのスタートアップはSkypeだけではありません。The Wall Streer Journalによるとエストニアの人口に対するスタートアップ企業数はヨーロッパ1であり、The Economistには、”タリンは今やベルリンやロンドン、シリコンバレーと同じように語られる”書かれています。そして、ベンチャーキャピタルの巨人Marc Andreessen氏は、”エストニアの起業家ほどワクワクさせてくれるものはない!”とツイート。まさに今エストニアはスタートアップが最もアツい国であることが伺えます。

そしてなんと、2014年以降、エストニア国民以外もエストニアの電子市民となれるようになりました。違う国に住んでいても、電車IDを発行したり、エストニアで起業することができるようになったのです。現在安倍首相もエストニア電子市民に申請しているそうです。

何故、エストニアでこのような改革が成功し、他の国では実現しないのでしょうか?

BloombergのITの成長がアツい国リストには、他にもフィンランドやナミビア、アゼルバイジャン、そして日本だって挙がっています。

エストニアの大統領Toomas Hendrik氏はその理由を”テクノロジーやスケーラビリティの問題ではない。政府の意志があるかどうかである。”と語っています。

電子IDの試みは様々な国で行われてきましたが、エストニアほどの成功例は他にありません。

テクノロジーは政府を助け、新たなビジネスが生まれるステージを作るということを、政府自身が認識することが必要なのではないでしょうか。

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