ETHERISCの取り組みとそのポテンシャル -ETHERISC前編

ETHERISCの取り組みとそのポテンシャル -ETHERISC前編

Takuya Shamoto
Takuya Shamoto
2018/12/24

以前にもeconomies2.0では、保険×ブロックチェーンの可能性についてを連載を通じて紹介しました。

ブロックチェーンとの親和性が非常に高い保険の領域に取り組むプロジェクトは、iXledgerやfidentiaX、また既存の大手企業とコンサルティング企業が共同して行っているものなど、世界各国に多数存在しています。保険ビジネスの市場規模は非常に大きく、世界全体のGDPの6%を占めるとも言われており、その業界構造を刷新しうるブロックチェーン技術に多くの注目が集められています。

その中で、日本では何故か全く紹介されていないものの、精力的に活動し高いポテンシャルを感じさせるプロジェクトがあります。ETHERISCというチームのプロジェクトです。

今回は、前後編の2つの記事を通して、このETHERISCの取り組みを紹介します。

ETHERISCの始まり

ETHERISCの始まりは、共同創業者の2人のSlack上での出会いでした。

保険領域におけるブロックチェーンの可能性をディスカッションしてから2人は意気投合し、2016年に上海で行われたEthereumのDevconにてビジネスアイデアを発表。それが高い評価を受けたことをきっかけに、“分散的保険市場の創出”という大きな目標をゴールに定め、現時点でも本格的に活動を続けています。世界中で行われた数々のイベント・大会にて入賞し続けており、2018年6月25日から7月23日の間にてトークンセールで8,035 ETHを集めました。

彼らの描く構想は壮大で、今すぐには達成が難しいように思われるところもあるものの、その未来の到来を期待したくなるようなものでもあります。

前編となる今回の記事では現時点で公表されているプロジェクトについてをまとめ、後編となる次回の記事にて、ETHERISCが今後将来成し遂げようとしているプロジェクトの概要、トークン設計に関してを紹介していきます。

飛行機遅延保険

彼らが2016年のDevconにて発表したのが、この飛行機遅延商品のアイデアでした。“Flight Delay”と名付けられたこの保険は、2018年の10月まではベータ版として一部のユーザーと航空会社にのみ展開していました。しかし現在ではEUにてライセンスを取得し正式な商品化しており、これまでで数千件以上のフライトにおいて実際に適用されています。パブリックブロックチェーン上に載せられた、最初の保険Dappsであると彼らは主張しています。

いくつかの日本語の記事においてETHERISCは再保険領域のプロジェクトと紹介されていますが、それらは誤りです。彼らが、少なくとも今のフェーズにおいて注力しているのは“パラメトリック保険”の領域です。パラメトリック保険とは“一定の条件を満たした際に自動的に保険金支払いが行われる仕組み”のことを指します。以前の記事内にても他の保険制度と合わせて紹介していますので、ぜひそちらもご確認ください。

従来の保険制度は6社から12社ほど中間業者を必要とし、ユーザーからもらう保険金の5割ほどしか純粋な保険金支払いに使われてはいません。しかし、パラメトリック保険に代表される非中央集権型保険(Decentralized Insurance)であれば、80%から最大で97%ほどの保険金をユーザーに還元することが出来るとETHERISCは公式ドキュメントにて説明しています。

この飛行機遅延のためのパラメトリック保険は、flightstats.comをオラクルとして、Ethereumのチェーン上に作られた彼らのアプリケーションにデータが取り込まれ、対象の飛行機が45分間遅れた瞬間ユーザーに保険金としてETHが自動的に振り込まれます。従来の保険金受け取りのために、書類を提出したり窓口に並んだりする必要はありません。人件費などのコストも大幅に削減されるため、この飛行機遅延保険の領域においては、近いうちにも既存の他の保険から大きく入れ替わる可能性を秘めています。

現在は主にEU圏内にて展開されていますが、今後アメリカやブラジルなどにも範囲を広げていく意向を示しています。

穀物保険

穀物保険に関して、ETHERISCはまだ正式に商品として提供を始めてはいないものの、プロトタイプが既に完成しており、実際に各地でその仕組みを機能させはじめています。今回はその中から1つ、保険仲介会社のAON、非営利慈善団体のOxfamの2団体と共同で行うスリランカでのプロジェクトを紹介します。

たとえば日本における生命保険の加入率を見てみると、その割合は80%を超えているとのデータがあります。しかし、人口2100万人を抱えるスリランカという国において、保険に加入している人の割合は7%を下回っています。これは生命保険に加入している人の割合ではなく、“あらゆる種類の保険において、何かしらの保険に1つでも加入している人の割合”です。

またスリランカでは、国民の3分の1が農業労働に従事しています。市場規模はスリランカのGDP全体の20%もの割合を占めているものの、先進諸国に比べ農業労働者のための保険制度は整備されていません。Oxfamのレポートによれば、スリランカの都市の1つであるバッティカロアにおいて、毎年40%の穀物が洪水被害により失われており、2014年にはその被害は70%にも達していると報告されています。

これを受け当初、スリランカ政府が穀物の保険制度を導入しようと試みていました。しかし保険商品に馴染みのない国民にはなかなか受け入れられず、農家はリスクに晒され続けたままになっていました。そこで2016年よりOxfamとAONが政府に代わり保険の導入を始め、2018年からETHERISCが技術提供として共に取り組みを始めました。この取り組みはCoindeskやForbesなど各国メディアからも多く報道されています。

Oxfamによる農家への保険加入の啓蒙活動と関係構築が行われていたこともあり、ブロックチェーンを用いた大規模なパラメトリック保険導入対象としてスリランカは適した地であったとも言えます。ETHERISCは現在、降水量に応じた保険金自動支払いの仕組みを4000の農家に導入し、今後8000以上の農家に展開を広げていく見通しだと語っています。

また、彼らは第2フェーズとして保険領域だけでなく、スリランカの食物にまつわるバリューチェーンをブロックチェーンに載せ、透明性と信頼を持ったインフラを構築していくことも示唆しています。

ETHERISCの今後の展開

他にもETHERISCは現時点で、ハリケーン保険、暗号通貨ウォレット保険、社会保険などいくつかの領域において商品化を進めています。しかし現時点でのこれらの活動は彼らのロードマップにおいては序章でしかありません。

ETHERISCは、自分たちが目指すゴールを以下のように定義しています。

A common infrastructure, product templates and insurance license-as-a-service make a platform that allows anyone to design, launch and distribute their own insurance products.

ブロックチェーン技術を活かした保険商品を作ることが彼らの目的ではなく、“誰にでもオリジナルの保険商品をデザインし、公開し、販売するためのテンプレートとライセンスを用意したプラットフォームを構築すること”を彼らはゴールに挙げています。もちろん保険商品は、誰にでも簡単に作れるようなものではありません。しかし彼らは、現在の大手企業ひしめく保険システムの民主化をその大きな目標に据えています。

次回は、その彼らの構想と、そのために重要な役割を果たすトークン設計についてを解説していきます。


参考

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