分散型保険市場の構築へ挑戦するETHERISCのトークン設計とは -ETHERISC後編

分散型保険市場の構築へ挑戦するETHERISCのトークン設計とは -ETHERISC後編

Takuya Shamoto
Takuya Shamoto
2018/12/29

前回の記事にて、ブロックチェーンを用いた新たな保険ビジネスに取り組むETHERISCについてを取り上げました。

現在ETHERISCが正式に実用化しているのは飛行機遅延や、穀物、ハリケーンに対するパラメトリック保険(規定条件を満たした際に自動的に保険金支払いがされる保険)商品です。しかし前回の記事の最後にも書いた通り、彼らが目指しているのは保険商品を作ることではありません。ETHERISCが掲げている大きなゴールは、“誰にでも分散型保険商品が作れるプラットフォームを構築すること”、言い換えれば“保険業界の民主化”です。

非常に面白い構想を描いているものの、ホワイトペーパーが複雑かつ難解であるためか日本では全く触れらていない彼らのプロジェクトについて、後編となる今回の記事で皆さんに紹介していきます。

既存の保険ビジネスにおける課題

説明に入る前にまずは前提として、既存の保険ビジネスが抱える問題点を確認していきましょう。ETHERISCは消費者と起業家という2つの立場からの観点で、既存の保険ビジネスを批判しています。

消費者の抱える課題

そもそも保険会社とユーザーの間ではインセンティブが相反しており、またその力関係も不平等であることを彼らは一貫して批判しています。

保険とは本来、個々人の生活の安定を皆で支え合うシステムですが、実際に有事のことが起こった際に、保険会社は出来る限り保険金を支払おうとしないインセンティブが働きます。それゆえ商品設計を複雑にし、煩雑な支払い申請を必要としたり、保険金支払いの審査を多大な工数を割いて入念に行うなどをしています。そのように、ユーザーから吸い上げた保険金をユーザーに還元しきることなく、半分近くを企業の純利益としている保険業界の構造にETHERISCチームは疑問を投げかけています。

 

起業家・開発者の抱える課題

起業家の目線からも2つの問題点を指摘しています。1つ目は保険業界は法規制・ライセンスや初期費用の面で参入障壁があまりに高く、既存の大手企業がその立場を追いやられることのない強者のゲームであること。2つ目は他業界に比べ商品開発の知見が共有されておらず、世界各地で非効率な車輪の再発明が行われていることを問題点に挙げています。

ETHERISCプラットフォーム

それらの課題に対し、ETHERISCは“誰にでもオリジナルの保険商品をデザインし、公開し、販売するためのテンプレートとライセンスを用意したプラットフォームを構築すること”による解決を目指しています。言い換えれば、ETHERISCの持つノウハウを活かした保険事業を、誰にでも起こせるようにするサービスです。

前回の記事にて紹介したようにETHERISCは、Ethereumのスマートコントラクトを用いて、従来の保険の仲介業者を廃した新たな保険商品を既にいくつか開発しています。それらの過程を経て、ブロックチェーンを用いた保険商品の開発メカニズムをさらに研究してゆけば、新たな保険商品は簡単に開発出来るようになると彼らは考えつきます。そしてこれまでに積み上げているノウハウを、自分たちだけの物でなく誰でも使えるオープンな物にしていこうと、保険商品のテンプレートやライセンスが用意されたプラットフォーム構築の構想を打ち立てました。

現在の保険業界では、InsurTechが出てきても大手と提携せざるをえない。スタートアップは本当は新たなビジネスを起こしたかったはずであるのに、提携大手の敷いたルールで戦うことを強いられてしまう。Etheriscプラットフォームは革新的で独立したチームの、アジャイルな開発から展開までを支援する”と彼らは宣言しています。

ビジネスモデル

DIPトークン

この分散型保険プラットフォームにはDIP(Decentralized Insurance Protocol)トークンというERC20に準拠したトークンが用いられます。このトークンは保険商品の売買に使われるだけでなく、プラットフォーム構築にまつわる様々なステークホルダーへのインセンティブとして用いられます。トークン設計の基本的な仕組みは以下の図にて表されます。

図に記載されている金額はあくまで一例ですが、この図を用い、トークン設計の概要を解説をしていきます。

ETHERISCプラットフォームは、既に言及した通り“誰にでも保険商品を作ることの出来るプラットフォーム”を目指しています。そのため、保険商品を提供するのはETHERISCではなく、サービスを作る他の起業家、事業主になります。

サービス提供者は、ETHERISCプロジェクト内ではKeeperと呼ばれます。KeeperはETHERISCプラットフォーム上でサービスを開発するために、まずDIPトークンを購入します。購入したトークンは担保としてロックされ、その後Keeperはテンプレートを活用してオリジナルの保険商品を作り、公開します。担保として必要なDIPトークンは、商品の設計がシンプルであるほど少なくなり、複雑なものになるほど多く必要となります。

また、年間の売上の15-25%は常にDIPトークンとして保持することが義務付けられており、運営に支障が出ないように設計されています。Keeperがプラットフォーム上で不適切な言動を行なった際には、プラットフォーム内ガバナンスによりトークンが没収されるようにも設計するともされています。

保険に加入したい人は、ETHERISC上で自分に適した商品を探し購入します。一般ユーザーのプラットフォーム内での支払いは、DIPトークンはもちろん、他の暗号通貨やフィアットでの支払いも可能になる予定です。

ユーザーから支払われた保険金は、商品を作る際にあらかじめ決めておいた配分に従って、リスクプールとサービス提供者へ分配されます。上図では、ユーザーが保険金として$1000支払い、その内$900がリスクプールに送られ$100はサービス提供者に報酬として送られています。

Keeperは、オラクル提供者や、ライセンスホルダー、マーケティング担当など自分のビジネスを拡大させていくのに必要な人々をプラットフォーム上で巻き込み、商品開発から展開までの全ての工程をプラットフォーム上で行うことが出来ます。サービス提供に関わってもらった人たちへは、Keeperが事前に報酬金分配の割合を設定しておくことで、商品が購入される際に自動でDIPトークンが支払われるようになります。これらの商品や保険金の金額設定であったり、各ステークホルダーへの配分比率の目安などは、ETHERISCが今後研究を深め独自のアルゴリズムにより算出していくとしています。

プラットフォームが拡大していくにつれて、ゆくゆくはフリーのエンジニアやUI/UXデザイナーもこのプラットフォーム上でプロジェクトを探していくことが出来るようにしていく可能性も公式ドキュメント内にて触れられています。このように多数の人々を巻き込めるような設計にすることにより、インターネット効果を狙い、サービスの大規模な展開とトークンの市場価値が高まることが期待されています。

 

Risk-Pool Tokens

ネイティブトークンであるDIPトークンとは別に、ETHERISCプラットフォーム上にはもう1種トークンが用意されています。Risk-Pool Tokensと呼ばれるものです。上の図において右列で紹介されている部分になります。

保険商品を作るにあたって、必要不可欠なのが再保険の仕組みです。再保険とは保険提供主体が加入する保険のことを指します。1つの保険商品のプール内ではカバーしきれないほどの多くの保険金を必要とする自体が起こった際に、再保険のプール内から保険金が支払われることでユーザーと保険商品を守っています。

ETHERISCでは、サービスの初期段階は既存の再保険会社と契約を結ぶ予定であるものの、最終的には再保険もトークンを用いてプラットフォーム内で分散的に行うことをロードマップとして描いています。

Risk-Pool Tokensの仕組みは、個人投資家がある商品の再保険トークン(Risk Pool Token)を購入・ステークし、12ヶ月間それらが使われることがなければ、ステークしていた金額の全額と保有していたトークン保有量に応じた報奨金が受け取れる、といったものになっています。上図では$1500を投資した個人投資家が、1年後にステークしていた$1500にプラスして報奨金の$100を受け取っています。言い換えれば、再保険支払いが起こらないことに対する賭け金とも言えます。実際に彼らの商品である飛行機遅延保険のFlight Delayにも、このRisk Pool Tokensのベータ版としてRSK-FDDというトークンが発行されています。

分散型保険プラットフォームのもたらすメリット

従来の保険ビジネスは6-12社の中間業者を必要とし、ユーザーへの保険金支払いに使われていたのは全体の45-70%ほどでしかなかったところが、分散型保険によれば中間業者は0-3社ほどで済み、保険金支払いに80-97%ほど還元することができるとETHERISCは主張しています。

また、これまでの既存ビジネスで起きていた、保険の提供主体とユーザー間でのインセンティブの違いによる摩擦は、スマートコントラクトを用いた自動取引により解消されます。起業家側からしても、新規保険商品の構築コストは従来の10-20倍の削減を見込むことができ、市場に出すまでの時間も何ヶ月、何年もかけていたところから最短で数日でのサービス提供が可能になる、そのようなプラットフォームを彼らは作ろうとしています。

プラットフォームを作ってから初期の段階では、ETHERISCの既存の商品をプラットフォーム上にあげ、また市場の活性化のために自分たちも積極的に新商品開発を行っていくとしています。しかし、市場に活気が出てくるにつれ徐々にフェードアウトしていき、完全にユーザーが自分たち自身で必要な保険商品を作り上げていくような、公共財としての分散型保険市場を構築することが彼らのゴールです。

これらの仕組みが真に実現すれば、世界に40億人いるとされる保険商品へのアクセスができていない貧困層の人たちへも、サービスを提供していくことは十分可能であると考えられます。

まとめ

彼らの構想は非常に面白いものです。しかしながら、その取り組みは始まったばかりであり、今後どのように進んでいくのか、どのような問題が起きてくるのかは蓋を開けて見なければ分かりません。今回の記事では概要を伝えるために細かい部分の説明は省いたものの、それでもパラメトリック保険商品開発のテンプレートや、法整備、オラクルの問題に関してなど、果たしてどこまで実現出来るのかはホワイトペーパーを見ても不明瞭ではあります。彼ら自身も今後研究開発を進めていく段階なのでしょう。

プロジェクトのロードマップに関してはホワイトペーパー内にて

  1. 第1段階として、保険業のライセンスを持つ企業と協業し分散型パラメトリック保険商品を発表
  2. その間、ETHERISCチーム自身でもライセンスを取りながら、再保険会社などと契約して独立したプラットフォームを構築
  3. 最終的には再保険も自社プラットフォーム内で回るようにしてゆく

とも記載されています。

現時点ではEUにて保険業のライセンスを取得を完了し自社商品の展開は行なっているものの、まだ他国でのライセンス獲得やプラットフォームの構築までは至っていない段階であるため、1と2の中間あたりの進捗具合であるとも言えます。

しかしトークンセールを行なってからまだ半年も経っておらず、そもそもICOを行う前に自社商品の開発とプラットフォームの設計に2年近くもの時間をかけています。

創業者たちのビジネス経験も長く、壮大な理想を掲げながらも着実にその歩みを続けている稀有なプロジェクトであり、前回の記事で紹介したようにOxfam、AONとの提携事業や数々のイベントでの受賞歴など、印象的な活動実績もいくつか残してもいます。

完全なる分散型保険市場のインフラとして、今後に注目したいプロジェクトの1つであると言えるでしょう。

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