暗号通貨を用いたケニアのスラム街支援 【地域通貨とブロックチェーンとの未来を考察する #3】

暗号通貨を用いたケニアのスラム街支援 【地域通貨とブロックチェーンとの未来を考察する #3】

Takuya Shamoto
Takuya Shamoto
2018/12/02

これまで本連載にて、地域通貨とは何か、そして暗号通貨の流動性を担保するBancor Protocolについてを紹介してきました。

第1回の記事では、補完通貨(地域通貨・暗号通貨)は、既存の通貨ではカバーすることの出来ていなかった取引を可能にすること。そして第2回では、異なる暗号通貨の流動性を担保する仕組みとして、Bancor Protocolが作られたことが重要なポイントとして紹介しました。

連載の最終回となる今回では、いよいよ本題である、世界初のブロックチェーン×地域通貨プロジェクトを取り上げていきます。

Grassroots Economicsの地域通貨プロジェクト

2018年8月、Bancorによる世界初の地域通貨×ブロックチェーンの取り組みが、ケニアを最初の舞台として始められました。しかし、日本に暮らす我々にとって、地域通貨の取り組み自体馴染みのないものであり、そこにブロックチェーンを使う必要性などもあまり見えてこないでしょう。そこでまずは、そもそもケニアがどのような地域で、なぜ今この取り組みがケニアで行われているのか、その背景を紹介します。

ケニアは東アフリカに位置する人口4970万人の国家であり、日本でも有名なマサイ族を含め、40以上の部族と60以上の言語があるとされています。携帯の普及率は非常に高く、成人のほとんどがガラケーもしくはスマホを保有しており、国内の大半の取引は電子通貨にて行われているなど、隠れたFinTech大国とも言われています。しかしそれとは対照的に、銀行口座を持っているのは人口の2割ほどに止まっており、国民の4分の3ほどが1日1ドル以下での生活を強いられています。また、都市部では政治の汚職・賄賂問題が蔓延し、地方にお金が流されず、経済格差は深刻な問題となっている現状があります。

ケニアでは個人商店のようなビジネススタイルが一般的であり、時期によっては収益が安定しない、経済ボラティリティの高い状態です。そうすると商業の流通も十分に回らず、銀行からの融資も得られないことも相まって、日常生活の必需品や子供の学費の支払いなどが工面できなくなる状況が頻繁に起こります。それらの問題を解決しようとしているのが地域通貨です。

ケニアにおいて地域通貨の取り組み自体は、Grassroots EconomicsというNPO団体によって2010年頃から行われていました。ケニアに留まらず、南アフリカやコンゴ共和国、フランスやスペインでも活動しているこの団体は、国連SDGsに関わる活動の一つとしても注目を浴びています。Grassroots Economicsは、トップダウンで引き上げる開発援助の姿勢ではなく、“草の根(Grassroots)”からしっかりと地域の経済圏が根付くよう、地域の資産を活かした自律的な経済活動へのサポートを信条とし取り組みを広げています。2013年に最初の地域通貨が発行されてから、現在ケニア国内では7つの地域通貨が展開され、1200以上の商店・学校にて使用できるようになっています。

それではどのような形で地域通貨が導入され、使われていったのかを簡単に見ていきましょう。

Grassroots Economicsはまず寄付や投資家などを通して支援金を集め、貧困地域への設備投資や改築など、ビジネス構築の土台作りを行います。そうして地域資産を高めながら法定通貨ベースで地域内外との流通を増やし、十分な土壌が整ったところで地域通貨の運用を始めます。地域通貨はそれぞれが持っている資産の価値を加味した上で個々人に配布され、初期のうちは学校などのサービスへの支払いなどに使われます。そして徐々に地域内での商品の取引は全ての地域通貨内で行えるようにシフトしていきます。この活動により、ケニアでは以下の図で示されるように雇用の増加や、経済の活性化、食糧アクセスの安定がもたらされるようになりました。

Grassroots Economicsは公式ブログにてこのように発信しています。

$0.20 USD is enough for a meal in much of the world. However, we have nearly 3 billion people on this planet that can’t afford at least one meal a day. This is a problem of a poorly designed currency system that doesn’t intrinsically value the health of communities, and one that needs to be addressed urgently.

この世界の大半において、一度の食事を得るためには0.2ドルさえあれば十分である。しかし、我々は一日一回の食事さえをも得られない人々を、この地球上におよそ30億人ほど抱えている。これは持続発展可能なコミュニティの健康を本質的に重視しない不完全な通貨システムによる問題であり、そしてそれは今すぐに取り組まれるべき問題である。

Bancorが新たにもたらした価値とは

Bancorは今回Grassroots Economicsと提携し、それまで紙幣として発行されていた地域通貨を完全デジタル化して、発展的なものへと進化させています。Bancorがもたらした価値をまず初めに確認していきましょう。

  • これまで印刷コストがかかっていたため5種類以下の紙幣の発行しかできていなかったところを、電子化により様々な額の決済が容易に行えるようになる。取引は全てブロックチェーン上に安全に記録。
  • マーケットプレイス上にサービスの宣伝を可能にし、製品の認知向上を高め地域内での流通を高める。
  • アプリ上でのシンプルなUI/UXにより、一般の取引や友人・家族間の送金もより簡易にかつ手数料ゼロで瞬時に行われる。(コンセンサスアルゴリズムはPoAを使用)

Grassroots Economicsからすれば、新たな通貨を発行することのコストが大幅に削減されました。これまでのように偽札防止のための複雑な処理を施した紙幣を発行する必要はなく、ネットワーク上に新たなトークンを生み出すのみで地域通貨の運用を始めることができます。また取引の透明性により通貨の使用状況を簡単に確認する事ができ、運営者たちはケニア住民への純粋な支援業務にこれまで以上に集中する事ができるようになっています。

また、何よりBancor Protocolがもたらしたものとして大きいのは、他の地域通貨トークンとの交換を格段に容易に行えるようにしたことです。これはまさにGrassroots Economicsが様々な地域通貨を発行していく上で直面していた課題でした。Bancorにより、今ではある地域の住民が隣の地域の野菜を欲した時にアプリ上で数タップするのみで、スマートコントラクト上でのトラストレスな取引がサードパーティを介さずに行われるようになりました。ガラケーと呼ばれるような古い形式の携帯を保有している人も多いため、その場合でもダイアルで数字を入力しシンプルなテキストコードを送るのみでやりとりができるような体制を整えています。

ケインズの提唱した超国家通貨Bancor

ここまでの話から一つの考察をあげれば、ケニアという国は現在、地域それぞれが各自の経済圏を高めていきながら他の地域と必要な分だけ相互に取引を行う“小さな経済圏の集合体”として、これまで存在していなかったような国家経済のあり方を創り出す可能性を秘めています。

そもそも、実は“Bancor”の名が出てきたのはつい最近の話ではありません。第二次世界大戦後、混乱に陥っていた国際経済市場の安定化を図る目的で、マクロ経済学の祖であるジョン・メイナード・ケインズと彼に師事していたシューマッハーにより、超国家通貨“Bancor”の構想が1940年に初めて発案されました。彼らの構想は、一言で言えば、“国家間の取引における基軸通貨として、どこか一国の法廷通貨を用いるのではなく、独自の理論を用いた超国家通貨を用いてネットワークを構築する”ことを目指していました。しかしBancorの構想はアメリカの反対に合い、基軸通貨を米ドルに据えたブレトン・ウッズ体制が採択されることになります。ブレトン・ウッズ体制は一定の成果を収めてはいたものの、結果的にはケインズの懸念の通り1971年にニクソンショックが起こり、その役目を終えることになりました。

 

暗号通貨によるクリプトエコノミクスは、ケニアの事例のように、その規模がどうあれ、小さな経済圏を多数構築していく世界を生み出していくでしょう。その時これまで以上に求められるのが、異なる経済圏同士での、通貨と通貨を交換するための簡易的かつ公平な仕組みです。Bancor Protocolのプロジェクトは、ケインズの描いた経済システムを現代に引き継ぎ、そのネットワークの実現を試みようとしています。

ケニアでは地域通貨の取り組みにより、地域内外での取引が増え、経済の活性化が促進された結果、スラム街に暮らしていた人たちの内の一部は今や銀行などの既存の金融サービスにもアクセスすることが可能にもなりました。マイクロファイナンスに代表される、ファイナンシャル・インクルージョンの新たな実例になります。世界規模で見ると、ケニアの事例のように既存の金融サービスにアクセスできていない層は20億人に上るとも言われています。また、発展途上国では読み書きができない層がいたり、法制度や裁判制度も未熟であったりします。言い換えるなら、金融機関からの“信用”や、個人間での“信用”が担保されにくい人々は、地球上には未だ数多くいます。ブロックチェーンのトラストレスな仕組みや、他の生体認証などのテクノロジーなどと組み合わせることにより、これまで作れていなかった新たな“信用”を担保して、取引を可能にしていくことが期待されています。

まとめ

いかがだったでしょうか。地域通貨の事例は各地の様々な状況によって形を変えるべきものであり、単純に模倣すればいいといった類のものではないものの、BancorとGrassroots Economicsは現在取り組んでいる地域通貨構築の技術をオープンソース化し、世界中の地域・自治体がより簡易的に、自律した経済圏を作っていけるよう今も取り組みを続けています。

ブロックチェーン技術の利用法は、世界中の天才たちにより研究し模索され続けながらも、未だ世の大半の人に届くものは生まれていないのが現状とも言えます。しかし、このBancorの果たしている役割は、ブロックチェーンの有用性を明確に証明するものになり得るかもしれません。

今後もEconomies2.0では新たな経済圏の形を調査していきたく思います。


参考

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