Chaintope 中城元臣氏インタビュー #2 開発者としての思想とブロックチェーンの未来

Chaintope 中城元臣氏インタビュー #2 開発者としての思想とブロックチェーンの未来

Tsuyoshi Kaji / 編集長
Tsuyoshi Kaji / 編集長
2019/04/11

前回のおさらい

前回、「数珠つなぎインタビュー」の第3弾としてChaintopeでイーサリアムのリサーチャーをされている中城元臣氏にイーサリアムの研究開発以前のお話やイーサリアムの開発環境にコミットする理由などをお聞きしました。

まだお読みになっていない方はこちらからどうぞ。

今回はより開発について掘り下げ、中城さんの開発・ガバナンス思想や開発者視点のブロックチェーンとビジネス・社会の関係のあり方について伺います。

スマートコントラクトのアップデートについて

開発思想についてお聞きします。この「コントラクトは積極的にアップデートされていくべきだというツイート」について意図を教えて下さい。これはオンチェーンガバナンス的な文脈ではなくZeppelinOSなどのような形で、仕組みとしてアップデートできるようにするべきということですか?

中城:そうですね。もともとSolidityコードのアップグレーダブルなアプローチというのは結構昔からあって、既に色々なコントラクトがそういう仕組みを取り込んでいますが、そこには二つの対立した意見があります。一つは反対意見で、契約にあたるスマートコントラクトがある時点で急に変わってしまうと何を保証しているのかがわからなくなるので避けるべきだという意見。もう一つ賛成派は、契約とはいえプログラムなのでバグが見つかれば修正しないと危ないからアップデートできるべきだという意見です。

僕はどちらかというと今まで反対派の方で、コードをアップグレーダブルにしなくても新しいコントラクトをデプロイして、次から新しい方を使うという形で対応すればいいと思っていました。結局エンドユーザーがコントラクトを直接叩くことは少ないので、新しいコントラクトに資産を移動してしまえば、バグを含む古いコンタクトがハッカーに攻撃されたとしてもそこまで大きな問題にならないのではないか、コントラクト自体をアップグレーダブルにするのではなく乗り換えられればいいのではないかと考えていました。

そして仮にアップグレーダブルにするとしても運営が一方的にアップグレードするのではなく、ユーザーの投票なりによってエンドユーザーの承認に基づいてアップグレードする必要があるとというスタンスでしたが、最近はブロックチェーンは過去の履歴さえ担保していれば、言い換えると過去に何が起きたのかを誰でも検証可能であれば、未来のことを担保していなくてもいいのではないかという風に考えています。

アップグレーダブルという点に関しては過去の履歴さえ担保していれば、できてもできなくてもどちらでもよく、重要なのは過去のコントラクトで行った処理が保証されて、きちんと検証可能であるということだと思います。そういう趣旨のツイートですね。

ブロックチェーンのガバナンスのあり方

コントラクトのアップデート・チェーンのアップデートはブロックチェーンのガバナンスに関わります。先日Economies2.0でAnti Szabo’s Law (ブロックチェーンが社会基盤となるためには優れたガバナンスの機構を取り入れて不測の事態に柔軟に対応すべきであるという主張、詳細) について取り上げました。これについてはどうお考えですか?実際仕組みの作り方によっては衆愚政治になりかねないのは事実です。

中城:あのテーマは社内でも議論がありましたが、僕と安土はどちらかというとVitalikと同じ意見で、具体的なことがわからないということと、Vladはブロックチェーンを過大評価しすぎているのではないかと思っています。

一つのチェーンが強大なパワーを持つことはおそらくないと思っていて、社会の全ての基盤がブロックチェーンに乗って、そこでのガバナンスで全てが決定するくらいの威力を持つことはないと思います。

色々なチェーンが生まれて、あるコミュニティだったりっていう限定された状況でのガバナンスを担保していくことはあり得るのかなとは思ってますが、ブロックチェーンという巨大な何かがあってそれがすべてを決めるようなことは可能性として低いと思います。気に入らなかったらそのコミュニティを抜ければいいくらいのイメージを僕は持っています。

コンピューターというのは命令されたことを愚直に処理しているだけで、言われた通りのことをやるだけなので、エンジニアはプログラムの正しさを信じているというか大前提にしています。なのでプロトコルのコンセンサスに対して人間の意志が介在するものよりも、ロジック化されたプログラムによって導き出されたものが正しいとする方が良いのではないかと思います。

とはいえ、コミュニティを作るときにおそらくその大多数はエンジニアではないし、必ずしもプログラムによって得る結論を正しいと妄信することはできないと思うので、コミュニティやdAppsなどの上位のレイヤーでのガバナンスは妥当だと思いますが、それをプロトコルに持ち込むのは違うのではないかと思います。

チェーンのロールバックに関しては先ほど言った過去の履歴が間違いなく記録されていて、検証可能であるという性質が成り立たなくなるので、絶対にダメだと思います。

 

確かにプロトコルは自然の摂理で、物理法則のようなものだという意見も一理あります。しかしプロトコルは人間が作ったプログラムでしかないので、それはそれでプロトコルの過大評価とも言えるかもしれません。

中城:ブロックチェーンは現状既にやり直し機能は持っていると思っていて、例えばTheDAOの件でイーサリアムイーサリアムクラシックハードフォークしたように、チェーンの分裂による解決でもいいのではないかと思います。

 

ハードフォークが発生する仕組みだと社会基盤になるのはやはり難しいと思います。

中城:だからこそそういう巨大な社会基盤となる一個のブロックチェーンを作ることはできないんじゃないですかね。コンセンサスが取れなくなるというか、何にコミットするのかがわからなくなってしまうと思います。コンセンサスを取るためにはできるだけシンプルじゃないといけないと思うんです。色々な条件が増えれば増えるほど条件の矛盾が生まれてくるので。なので様々な用途のブロックチェーンができて相互に繋がっていくというのが自然に発生する未来じゃないかと予想しています。

そういう文脈でインターオペラビリティとかオフチェーンが重要になってくると思います。これに関しては、1stレイヤーのブロックチェーン自体を速くするのは本当に必要なのかというのはわからなくて速いに越したことはないかもしれませんが、今は1stレイヤーに色々なものを載せすぎなんじゃないのと思っています。

特にイーサリアムは全然オフチェーンの開発が進んでいないので、難しいのは重々承知ですが、1stレイヤーを大きく変える前にまずはオフチェーン・2ndレイヤーでの開発をもう少し頑張らないといけないと思っています。1stレイヤーに刻まれるデータとしては今までイーサリアムというブロックチェーンがどういう選択をしてきたかという検証可能な履歴が残っていれば具体的なデータでなくてもいいと思います。

将来的なブロックチェーンの役割

今後イーサリアムが、そしてブロックチェーンがどういうところで使われて、そういう適した領域で使われていくことによって社会がどういう風に変わっていくと思いますか?

中城:未来の話は冷静に考えると難しくて重いし、あまり軽はずみなことは言えないなと思いますね。これまでも未来の話を色々考えてきてはいますが、その時々に注目している技術によって自分の中で意見が180度変わってしまうので、何とも言えないのかなと思っています。

しばらく前は何かの価値を表すトークンが生まれて、それに賛同する人たちによってコミュニティと経済圏が形成されるというトークンエコノミーで世の中が変わっていくと思っていましたが、最近はやはりそれも現実味がないのかなという気がしていて、正直なところ何に適しているのかはわからなくなっています。

これは最近よく言っていることですが、今のブロックチェーンというか仮想通貨と法定通貨を比較する類の議論はアンフェアだと感じていて、現在の仮想通貨は法定通貨で言うところの現金に相当するもので、秘密鍵をなくすというのは千円札をなくすのと同じなんです。ですが、仮想通貨は電子データとして流通できるので銀行のシステムと比べられたり、支払いに使われるからクレジットカードと比べられたりという状況です。

これは仮想通貨がまだまだ未成熟だからで、なのでこれから銀行とかクレジットカードとかのレイヤーに近い業務を担うものが出てきた方がいいと思っています。よくETH自体の保険と言っているのですが、仮想通貨をなくした時に補償する保険という業務が出てきた方がいいのではないかと思っています。

これはそんなに難しい話じゃないと思っていて、資産を預かったりすると法的な制限が大きくなってくるので、そうではなくもっとライトにできると思っています。仮想通貨はプログラマブルマネーなので、例えばマルチシグなどをうまく活用して、会社自体はカストディのリスクを負わずに秘密鍵をなくしたアドレスをリカバリーするというようなことであったり、スマートコントラクトにユーザーが持ち寄った資金をデポジットできるという形の保険であったりということができると思います。

これが普及するとUXが劇的に変わるかなと思っています。ユーザーにとっては今までのような「秘密鍵をなくすと非常に危険」という状況を改善できますし、開発者・サービス運営者にとってもカストディであったり補償のリスクを分離して保険会社に肩代わりしてもらえ、開発も加速すると思います。ただ、そうやって開発が進んでいったとしても最終的に何に使われるかという点に関しては、わからないとしか言えませんね。

昨年末からVitalikを含めコミュニティが金融領域・DeFi (Decentralized Finance) に向いています。イーサリアムのユースケースがそれだけで終わってしまうのは少し寂しいですが、ただ、冷静に考えると今DeFiが盛り上がることは非常に有意義だと思っています。お金の匂いがする領域なので再び投資家が集まり、業界全体として盛り上がり、さらに様々な開発が進みます。そこから得られた知見を応用してサービスが生まれると思います。金融のように分かりやすく、世の中をリードするアプローチで投資家からお金を入れてもらって、僕らが開発できる土壌を作ってもらうというのは一番重要だと思います。

ブロックチェーンの未来のことはまだなんとも言えませんが、色々な人がアイデアを出し、ブロックチェーンの活用事例を模索するのは素晴らしいことです。

 

何かコミュニティに伝えておきたいことはありますか?

中城:僕個人としては開発ツールや開発環境などに貢献して、Dappsエンジニアが何か新しいアイデアが浮かんだときにすぐに実装できる環境を作っていきたいと思っています。そういったところからコミュニティを支えられたらと思います。

それと、弊社でMasachainというプロジェクトをやっていて、マレーシアチーム主体で実証実験が進んでいます。日本では谷口が主体となって信頼関係とは何か、どうあるべきかという話から構想しています。これは既存の芝麻信用のような信用スコアとは別の形の信用スコアのようなものです。それをどうブロックチェーンに刻むか、ブロックチェーンでというところも含めて非常に難しいプロジェクトですが、ぜひ注目しておいて欲しいと思います。

 

当インタビューでは数珠つなぎインタビューとして、次のインタビュー先を指名していただいています。ブロックチェーン周辺領域で活動されている中城さんのお知り合いの方をご紹介ください。

 

中城:僕からは以下の4人を指名します。

安土は弊社のCTOとしてBitcoinのセカンドレイヤーや署名検証を中心に研究開発に携わっていて、谷口はBitcoin Coreをベースとしたプロトコルレイヤーの研究開発やMasachainのコンセプト研究に携わっています。

カナゴールドさんは元クオンツで、金融領域・DeFiについて造詣が深く、にわタコさんはメルカリのエンジニアで、先日ウォレットとカストディ業務についてのレポートを発表されていました。

各々とても興味深いお話をしてくださると思います。

貴重なお話をしていただき、ありがとうございました!

中城氏へのインタビューは以上となります。

次回以降のインタビューもご期待ください。


Chaintope:https://www.chaintope.com/

中城元臣氏 Twitter:https://twitter.com/nakajo

 

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