LCNEM CEO 木村優氏インタビュー #1 ステーブルコインの戦略と可能性

LCNEM CEO 木村優氏インタビュー #1 ステーブルコインの戦略と可能性

Tsuyoshi Kaji / 編集長
Tsuyoshi Kaji / 編集長
2019/04/01

はじめに

本インタビュー企画では、次のインタビュー先をインタビュイーが指名する「数珠つなぎインタビュー」として、ブロックチェーン周辺領域で活躍される方々にお話を伺っています。

前回のインタビューでは、Cryptoeconomics LabのCEOである片岡拓氏にお話を伺いました。今回は片岡氏からの数珠つなぎとして、株式会社LCNEMのCEO 木村優氏にお話を伺います。

以下、インタビュー内容。

仮想通貨との出会い 〜 投機から開発へ

まずはじめに、これまでの経歴について教えてください。

木村:現在、京都大学経済学部の4回生でこの3月に卒業します。株式会社LCNEMのCEOとCTOを勤めています。

中学校3年生くらいの頃から趣味でプログラミングをやっていたので技術的には結構強い方だと思いますが、ブロックチェーンの技術を触り始めたのは遅い方で、出川組 (2017年末に参入した投資家) より少し早いくらいなんです。

大学の経済学のゼミの中で仮想通貨の投機が盛り上がって、その勢いが高じてゼミのグループ論文をブロックチェーンのインセンティブ設計にしようかという話になり、それがきっかけでブロックチェーンについて深く調べるようになりました。

結果としてそのグループ論文は優秀賞のようなものを獲得したのですが、その後開発というかプログラムを実際に触り始めたのは2017年の12月ごろで、15ヶ月くらい前になります。それから興味を持ってビットコインイーサリアムNEMと色々なブロックチェーンの開発を試していたのですが、NEMは開発が本当に簡単で、イーサリアムより魅力的に感じたんですよ。

最近「それブロ」(それはブロックチェーンでやる意味があるのかという議論) という風によく言われてますが、どうすれば筋の良いブロックチェーンを使ったアプリを作れるのか、どうすれば「それブロ」を無視できる筋のいいシステムを作れるのかということを、開発に興味を持ち始めてから考えていました。

 

ブロックチェーンに興味を持った最初のきっかけが仲間内で盛り上がった投機とのことですが、面白かったとはいえなぜグループ論文でテーマとして扱うほど盛り上がったんですか?

木村:当時みんなbitFlyer Lightning を使っていたんですが、少額でレバレッジを高くしてギャンブルとか博打のような遊びをしていて、それが単純に面白かったというのが盛り上がった要因ですね (笑)。そこからグループ論文に向けて掘り進めているうちに深みにハマって。

 

ブロックチェーン界隈はシリアスで思想的な原体験を持っている方が多いので意外です。

木村:僕は思想的にはニュートラルで、非中央集権でも中央集権でもどちらでもいいと思っているんです。なぜかと言うと、僕は経済学マキシマリスト的なところがあって、つまり経済厚生が最大化されるなら中央集権でも非中央集権でも良いという考えなんです。僕は非中央集権が悪いのは独占によって経済厚生を損失するからだと思っていて、そういう見方をしているのでかなりニュートラルな立場を取っていると思います。中央集権的でも経済厚生が最大化されるなら仕方ないだろうと思っています。

ステーブルコインの必要性から生まれたLCNEM

それからどういう経緯でLCNEMを設立されたのですか?

木村:「それブロ」を無視できる筋のいいシステム開発について考えていて、一つの結論が「ブロックチェーンを使えば改ざん耐性を低コストで実現できる」というところだと思いました。最初は大したことない思いつきですが、当時キャベツとかの野菜の価格が高騰していたのでキャベツトークンとかを作って先物リスクヘッジとかさせたら面白いんじゃないかとか考えていました。ただ、よく考えるとそれをやるにあたってステーブルコインのような価格の安定したトークンがないと低コストな改ざん耐性のメリットが全く意味ないと思い、ステーブルコインの必要性を感じました。それに加えて、仮想通貨の価格の決定に関してよく考えた結果、イーサリアムなどのユーティリティトークンの価格は長期的に見ても安定しないだろうと思ったのもステーブルコインを開発しようと思った理由です。

なぜ長期的に見てもユーティリティトークンの価格が安定しないかというと、MMTの理論的にも通貨たり得るものは暴力が側にないといけないからです。皆が日本円を使う理由は、日本円で納税しないと罰せられるからなんです。ビットコインイーサリアムNEMも納税しないと罰する主体はいません。使わなければならないところはトランザクションを発生させるときです。仮想通貨の価値の生まれ方は、ネイティブトークンのようなユーティリティトークンの場合、トランザクション発生させる効用が需要になるはずです。ビットコインは例外的にゴールドみたいなブランドも価格を決める要因になっていますが、日本円やドルに比べ、納税しない通貨、納税の重力のない通貨の価格のボラティリティは絶対におさまらないと思いました。なのでステーブルコインは必要だろうと。

その当時BCCCが実験でやっているZENというステーブルコイン以外は国内でステーブルコインをやっているところがないということで、思い切ってやってしまえと思ったのがLCNEMの始まりです。ただ、個人事業としてやるには明らかに信用の必要な業種なので法人として登記してやり始めました。

それまで起業については全く考えていなくて、ずっと大学院の経済学研究科に進もうと思っていました。一方最近ツイートでも触れることが多いのですが、MMTとかFTPLという経済学理論に2年くらい前から興味を持ち始めていていました。経済学研究科はいわゆるDSGEモデル、動学的確率的一般均衡分析モデルというものをマクロ経済学として必修で学ぶ必要があって、正直なところFTPLとかMMTから見るとDSGEは現実を説明できていないただの机上の空論なんです。なので、そういう現実を説明できていない理論を数学を駆使してやるのはあまり面白くないだろうと思って徐々に経済学研究科への興味が薄れました。とはいえ就活もあまり肌に合わないなと思い、とりあえず経営管理大学院に進学しようと決めました。ちょうどよくそのタイミングでブロックチェーンを触り始め、起業したので助かったと思っています。一応経営管理大学院は合格して、4月から籍を置くことにはなりますが、会社の方を優先でやっていこうと思っています。

 

なるほど、長期的に見てもビットコインとかイーサリアムとかユーティリティトークン的なモデルのものはボラティリティが低くなることはないとお考えになっているのですね。

木村:そうですね。ビットコインは出来高が多いので割と安定はしていたりゴールドのようにユーティリティとは異なる価格決定をしていたりするんですが、他のユーティリティトークンに関してはそういう風に思いました。ただ、仮想通貨を軽視してるわけではなく、 仮想通貨がなければブロックチェーンを非中央集権的に成り立たせることはできないので、それぞれ適した使い道があると思っています。

つまり、仮想通貨によってブロックチェーンの非中央集権性を実現させてもそれを決済に使うというのはやはり筋が悪いというか、税金の重力がある中で日常使いに適してるのは法定通貨ペッグのステーブルコインだろうと思って作っています。

現実的なステーブルコイン戦略とは

法定通貨ペッグのステーブルコインはトラストフルの問題が切り離せません。トラストレスにこだわらずに日常使いという実用性を取るのはなぜですか?

木村:ステーブルコインには法定通貨担保型、仮想通貨担保型、シニョレッジシェア無担保型の大きく3つの種類があります。全部調べた結果、法定通貨担保型以外は経済学的に筋が悪いと思ったからです。

まず無担保型に関しては絶対にワークしないと思います。なぜかというと、無担保型の場合長期的にステーブルコインの需要が増え続ければいけないからです。仕組みを簡単に説明すると、無担保型にはクレジットトークンとステーブルトークンがあって、このステーブルトークンの供給量を減らす場合、コントラクトがクレジットトークン立てでステーブルコインを買い取ります。このクレジットトークンは次にステーブルトークンの供給量が増える時にエアドロップされる権利を持ちます。このクレジットトークンを買うことがインセンティブの両立制約を満たすには、当然ですが将来エアドロップされる額がクレジットトークンを買う額より高くないといけません。つまり今ステーブルトークンの供給量が増え続けないといけないことになります。なので、無担保型はいずれ破綻すると思って選択肢として切り捨てました。

仮想通貨担保型に関しては、為替介入的なやり方で安定させようとしていて、仮想通貨を担保に持ってレート調整をします。暴落した場合にはかなりリスキーなので、MakerDAOのようなプロジェクトは意義があると思いますが、自分でやるにはリスキーだと思いました。

法定通貨担保型はブロックチェーン界隈からすればトラストフルに見えると思いますが、経済学的には市場原理にかなっています。仮想通貨担保型も一応、市場原理の下に動いてはいますが、市場原理に対して価格を操作するという介入が必要になってきます。それは神の見えざる手の逆流で、かなり難しいと思います。それに比べて法定通貨担保型はペッグさえしておけば神の見えざる手で価格が安定します。歴史的にも、神の見えざる手に抗う動きはだいたい失敗に終わっていると思います。

そういうことも考えると法定通貨型が一番経済学的に筋がいいと思います。ただやはりトラストフルの問題が残るわけで、実際Tetherも良くないと言われています。

そこで資金決済法を読み進めていくにあたって、前払式支払手段を使えばトラストフルが悪いと言われている原因を排除できるのではないかと気づきました。前払式支払手段の発行業者は政府に50%の供託を求められているので、供託をすれば政府が監視していることになり、実質カウンターパーティーリスクを軽減できます。これも法定通貨担保型にした理由の一つです。

実際に弊社のステーブルコインは前払式支払手段で発行されているので、国に50%の供託が課されます。供託という形で政府の監視が入っており、もし弊社が債務履行しない場合は詐欺罪などで立件される可能性があるのでTetherなどの従来の仮想通貨としてのステーブルコインよりは法的にしっかりしていると思っています。

 

今後、前払式支払手段から仮想通貨に移行していくことはありますか?

木村:それは全くありません。仮想通貨交換業を取得して仮想通貨としてステーブルコインを発行し、いくら大きな会社になったとしてもTetherの問題はつきまといます。なのであれば前払式支払手段として供託を維持した方が理にかなっています。

弊社は現在、自家型前払式支払手段として発行していますが、第三者型前払式支払手段の発行に向けて動いているところ。第三者型になると加盟店契約を結んだところに関しては現金で精算できるようになります。自家型は現金での直接の清算は禁じられているんです。なので、今はAmazonギフト券なり何らかの購入代行という形でやっています。換金という点ではユーザーが外部で換金することはできますが、弊社が換金することはできないんですよ。JCBギフトカードを駅前の金券ストアで売るのはいいんですけど、JCBが買い戻してはいけないんです。それが第三者型になれば店舗に弊社が換金できるようになります。そこは目指しています。

 

会社・ビジネスとしてどのような戦略を考えていますか?

木村: トークンを弊社に戻して対価を得ることをクリアランスと呼んでいるのですが、今のところ転々流通を促進する目的でAmazonギフト券もしくは任意の購入代行でクリアランスをする際に手数料を少し取っています。それに加えて、第三者型前払式支払手段の登録ができれば、加盟店契約をしていただいた加盟店から少しだけいただくということも考えています。

 

第1回はここまでになります。第2回は開発者としての、そして経済学的な視点からNEM、Cosmos、将来的なブロックチェーンの役割について語っていただきます。是非お楽しみに。


LCNEMhttps://lcnem.com/

木村優氏 Twitter:https://twitter.com/YuKimura45z

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